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【読書】鳥飼玖美子著『英語教育の危機』|英語民間試験を大学入試に組み込むことの5つの問題点

ENGLISH と並べられた英語のクッキー

 英語の民間試験を大学入試に取り入れる、という議論は去年ぐらいから白熱していましたよね(悪い意味で)。

 で、結局、民間試験を導入することによる欠点があまりにも多すぎる(ツッコミどころがありすぎる)ことにより当面は見送られることになりました。

 この事実はみなさんご存知だと思います。

 

 ただ、どのような点が問題なのかということについては詳しく議論されていないのが現状です。

 そのような状況を理解するのに役立った本がこちら↓ 

 著書の鳥飼玖美子氏は、立教大学名誉教授であり、NHK「ニュースで英会話」も担当されている方です。

 本著の内容は英語民間試験の問題点をはじめ、英語の授業を英語で行うことの問題点など英語教育にフォーカスした内容となっています。

 

 今日書くのは、タイトルにもしましたが、なぜ大学入試に英語の民間試験を導入することが問題なのか?についてです。

 ということで本題入ります。

 

 

英語の民間試験を大学入試に組み込むことが問題な理由

1.各民間試験で目的が異なる

 まず第一に鳥飼氏は民間試験がそれぞれ目的が異にして作成されていることを問題にしています。

 例を出したほうがわかると思うので、TOEFLTOEIC、英検を例に挙げてみます

 

 TOEFLは北米の大学・大学院に留学し勉強や研究をしっかり行うことができるかどうかを判断するために用いられる試験です。

 

 TOEICはビジネスで英語を使えるかを判断するための試験。

 

 んで、英検は日本語を母語とし、日本で教育を受けている日本人の英語力を測定する試験です。問題は日常会話からビジネス活用まで幅広いことに加えて、検定級によって難易度が分かれている。

 

 他にも民間試験の種類はありますが、メジャーな試験としては上記の3つだと思います。

 上記の3つだけでも到達目標があまりにも違いますよね!?

 北米の大学・院で活用する試験もある一方で、ビジネスで活用できればいいレベルの試験もある。

 

 上記の3つだけでも到達目標がごちゃごちゃしているのに、全ての民間試験を大学入試の判断材料にすると、マジでカオスなことになります。

 カオスになると、受験生はもちろん、学校の教員や塾・予備校の講師の方々を混乱に陥れること必須です。

 

 一方従来のセンター試験の英語は大学入試センターにより、学習指導要領に準拠されて作成されているので、どの程度のレベルの英語力を図るのかがはっきりしています。

 

 したがって、各民間試験の目的が異なるため、受験生の英語力を測定することが困難であるために、問題となっている、ということです。

 これが第一の理由。

 

2.検定料の負担の問題

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 次に鳥飼氏は検定料の負担を問題にしています。

 鳥飼氏は著書の中でこう述べています。

民間試験を複数回受ける、という案は一見して、これまでのセンター入試より良いという印象を与えるかもしれないが、民間業者の試験は、受験にかかる費用も時間もまちまちだ。『英語教育の危機』p.150より引用

  

TOEICとか英検受けたことがある人ならわかると思いますが、検定料ってマジで高いですよね。

 TOEICだったらおよそ6000円しますし、英検は級が上がるごとに検定料が上がっていきます。英検2級なら7400円しますし、1級になると10000円超えます(無論大学側はそこまでの英語力を求めてはいないだろうが)。

 これらの試験を複数回受けるとなると、家庭の経済状況が厳しい受験生にとってはかなりのハンデとなるでしょう。

 業者はボロ儲けするでしょうが…。

 

 で、大学受験ってもちろん民間試験だけじゃないですよね?

 国立、私立大学の一般入試それ自体にも金がかかってきます。

 私立大学は学部ごとに金がかかります。

 これに地方の受験生なら東京などの試験会場に行くことが想定されるので宿泊費用がかさみます。

 

 (地方の会場で実施する私立大学もありますが、早稲田や慶應上智などのシャレオツな大学は一貫して首都圏です)

 

 国家が受験生のために金をばらまくのなら話は別ですが、現状では受験生に対して経済的な負担を課すことになります。

 

3.「試験のための英語」から脱却することができない

 第3に結局のところ「試験のための英語」から脱却することができないことが問題として挙げられます。

 文科省や政府、財界などのお偉い方たちは、「大学入試に民間試験を導入したら、ペチャクチャ英語を喋れる人材を生産することができるぜ!」と考えているかもしれませんが、民間試験だって所詮試験なので、「試験のための勉強」から免れることができません。

 

 鳥飼氏は著書でこう述べています。

すなわち民間試験を大学入試の代替とした場合、高校は競ってその準備を始め、高校英語教育の内容が民間試験に変質することが考えられる。就職活動を意識した大学での英語教育がTOEIC準備コースのごとくなっている実情を考えると、これが高校段階にまで及ぶ可能性は非常に高くなる。p.153

 

 こうなると厄介なのが、今の英語教育が「検定試験で点数を取るための勉強」になってしまい、ますます本質的な英語の力が弱まっていく点なんですよね。

 ぶっちゃけTOEICとか「話す力」がなくてもある程度解けるじゃないですか。

 試験で点数を取るためのイビツな勉強が全国の高校で跋扈するという悲劇が起きてしまう。

 

 なので民間試験を導入したところで「試験のための勉強」から免れないどころか、各種民間試験のための勉強をするという滑稽な事態が生じてしまうので、問題になっているのです。

 

4.コミュ力は数値で判断できない

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 わりと根本的な問題なのですが、

 英語の試験の成績が優秀=コミュ力が優秀

 とは限らなくないですか?

 

 よく企業が(特に大企業が)TOEICを重要視している傾向がありますが、TOEICの点数が高いからと言って、その人が英語で円滑に外国人とコミュニケーションとは限らないです。

 というかそもそも普通のコミュ力がなかったら、まともに会話が成立しません。

 

民間検定試験のスコアという数値でコミュニケーション能力が分かる、と単純に考える傾向は、政界、経済界、一般社会に根強く蔓延している。TOEICの得点を採用に義務づける企業が増えたのも、そのような思い込みによるものだと考えられるが、高得点者を優先的に採用したところ、英語力はあっても、商談どころかさっぱり仕事ができないで困っている、という報道が数年前から出始めるようになった。p.159

  そう、「英語が」できてもコミュ力がないために仕事が進まない、できない、という問題が生じているのです。

 さらに鳥飼氏は、

コミュニケーションとは、入力した情報が直接的に相手に届くというような単純なものではない。一人の人間が話したことが開いていに伝わる際には、その場の状況や相手との人間関係など、さまざなな要素が関係してくる。p.159

  とも述べています。

 マジで本質的すぎる記述ですよね。

 

 コミュニケーションは入力した情報が単純に相手に届くものではない。

 現代人はパソコンやスマホに慣れきっているせいか、正しく正確に自分の発信した情報が届くと勘違いしている!

 とはまあ英語とは少々関係ないですが、コミュニケーションという複雑なものを「英語ができる=コミュニケーション能力が高い!」と勘違いする人が後を絶たないんですよねぇ。

 

 試験の数値でコミュ力を測定することはできない、というのが問題です。

 

5.「話すこと」「やり取り」を誰が審査し測定するのか

 これは英語の話す能力とやりとりする能力をどう判断するのか、ということです

もっと複雑なのは、「話すこと」「やり取り」をどう測定するかである。TOEFLのようにパソコンに向かって特定のテーマについて語らせるのか、IELTSのように試験官とやり取りするのか、英検のように試験官の前で何かを説明させるのか、という選択があるし、受験生が発した英語を誰がどのように採点するのかという問題がある。p.157

  

 というかTOEICに至っては話す必要すらありませんし(reading&listening)。

 国家の英語教育としてやたら「話す能力」を伸ばしたがっている現状ですが、「話す能力」をどういうふうに評価するのか、というのはかなり難しい問題です。

 そもそも話す人の雰囲気とかでも結構印象変わってきますよね。

 活舌が良くない人だったらそれだけでマイナス評価になることもあり得ます。

 

 そういうわけで「話す能力」「やり取り」をどう審査するのかが非常にあいまいなため、試験としてふさわしいかどうかという問題があります。

 

まとめ

 英語の民間試験を導入することの問題としては

 各試験によってその目的が違う

 検定料が高い

 試験のための勉強から免れることができない

 英語の話す能力とやりとりする能力をどう審査するのか

 という5点が挙げられます。

 

 民間試験が大学入試に導入されたら富裕層がますます裕福になり、彼ら彼女らが「平偏差値エリート」となって日本を支配する未来が見えますねぇ。

 

 以上です。