たくさんの英語を聴けば聞くほど、音を聴きとれるようになりリスニング力が伸びる。世間一般的にはこのように信じられています。だから、「シャワーを浴びるがごとく」、英語を聴かせまくる教育を行っている学校も一部存在します。
しかし、『英語独習法』という本によれば、多聴ではリスニング力が伸びないことが書かれています。
語彙が少ないうちは、知らない単語がたくさん含まれる教材を無理に聴く練習をしても意味がない。意味をなさない英語の音声がただ素通りしていくだけである。(省略)…自然なスピードで話され、中身がある内容を聴きたいが、語彙が足りなくて聴き取れない。そういうことが頻繁にある。
『英語独習法』p.131
確かに英語の基礎知識が欠落している人が修行僧のごとく、英語を聴きまくっても、「ただの音」にしか感じないし、それである日突然「英語が聴き取れるようになった!」という事例は聞いたことがありません。
私自身の経験からしても、むやみに「英語シャワー」を浴びていた時はまったく聴き取る力はつかなかった記憶があります(高校生の頃やっていた)。
ではどうすれば、リスニング力が伸びるのかと言うと、語彙力の強化が必要なのです。
リスニングに時間を使うより、まず語彙を強化すること、その分野の記事や論文を読んで、その分野のスキーマを身につけることに時間を使ったほうがよい。語彙が豊富にあり、スキーマが働くトピックなら、そしてーーここが大事なのだがーー自分が絶対に理解したいと思う内容であればーー少し慣れれば英語はおのずと聞こえるようになる。
p.131
スキーマとはある事柄についての枠組みとなる知識のこと。
リスニングが聴き取れないのは知っている語彙が少ないことが原因としてありますが、それに加えて、経験値の不足という問題があります。例えばビジネスで英語を使った経験がないのにもかかわらず、ビジネスシーンを想定した英文を聞き取ろうとしても全く意味がわかりませんよね?
逆に自分が知っている単語が多い+話題も馴染みがある内容だったら100%英文の意味がわからなくても内容を理解できることが多々あります。
上記のことを鑑みれば、受験や資格の英語のリスニングは聴き取るのが難しいことがよくわかるでしょう。TOEICはゴリゴリにビジネスシーンを意識した英語が出題されるのに、受験者はそのような経験がないので、コンテクストを理解できない。だからなかなか得点にならないという。
それゆえ、試験の英語で他人とのコミュニケーションを意識した英語力、とりわけリスニング力をつけるのはなかなか難しいという現状があります。
聴き取る力を高めるためには語彙力と話題のストック量を増やすことが必要です。では具体的にどのような教材を活用すればいいのかという話になりますが、『英語独習法』の著者である今井むつみ氏は
1.語彙力を増やす
2.スキーマ(枠組みとなる知識)を使う
3.マルチモーダルな情報(視覚情報)を手がかりにする
ことに言及しています。
上記3点を満たすのに良い教材が映画やドラマ、スポーツの実況中継、海外の料理番組など自分の趣味にあったものです。ただ、ひたすらに英語を聴きまくってもそれはリスニング力の向上にはならないので、字幕を見て理解していく必要があります。
自分の趣味に合わせた英語学習は試験や資格で結果を出すには必ずしも有効ではないかもしれませんが、語彙力と知っている話題を増やすためには意義があると言えるでしょう。
本の内容をまとめると、
・多聴でリスニング力は伸びない
・リスニング力を伸ばすためには自分の興味・関心に合わせた英語教材を使う
です。
もし、本の内容が気になったら、ぜひ読んでみましょう。